コラム
Booking.com Japanを提訴した理由、都総合法律事務所 弁護士 高谷滋樹
インバウンドホテル会社経営宿泊旅館業民泊法律顧問裁判手続
https://news.yahoo.co.jp/articles/0fb0bc61546147b1507102fa02f48acecec7a5d2
民泊を経営管理する、すみれ商事株式会社が、
Booking.com Japan
を提訴したことが、報道されました。
Yahoo! ニュースのトップで掲載されたところ多くの反響をいただきました。
ブッキングドットコムは、言わずと知れた存在であり
日本国内で大手旅行予約サイトの地位を占めます。
このサイトに掲載された民泊が訴えた裁判なんですが、
深い意味があります。
インターネットの分野は、歴史が浅く、司法判断がされていない分野が多々あり、
今回の提訴で、未解決の領域に裁判所の初判断を仰ぎ、円滑な実務運営に資する一助になればと思います。
事実の概要は、
大阪府高槻市内に、京都市所在の原告すみれ商事株式会社が管理運営する、「京都・大阪 すみれ家」という民泊があります。
Booking.com
Airbnb
すみれ家の情報は、Airbnbを参照ください。
こちらが最新の情報を掲載しております。
こちらの、Booking.comのサイトには、各宿泊施設ごとに、口コミ欄が、設定されていて、宿泊者が、口コミを投稿できる仕組みになっています。
その口コミ欄に、2021年11月22日付で、
「さいてい」
という見出しで、口コミが投稿されました。
現在は、削除されています。
最近、削除されたようですが、すみれ商事株式会社が、Booking.comへ削除依頼しましたが、拒否されて2024年までは、表示され続けていました。
「さいてい」
という言葉は、
「馬鹿」、「ブス」などと並び、侮辱表現であり、誹謗中傷に該当します。
この事実関係を前提に、争点は、大きく3つあります。
第1に、
法人(会社)に、慰謝料請求が認められるか?
慰謝料、すなわち、精神的苦痛は、人間だけが負うものであり、人間ではない法人(会社)には、観念できないという考え方が、一般的です。
なので、法人に対する誹謗中傷事案の場合、風評被害など売上の減少による損害賠償請求という手段が通常であり、
売上の減少を証明するのが、なかなか大変な作業を強いられるのが現在の裁判実務です。
今回の、すみれ商事株式会社の場合、「さいてい」と誹謗中傷されても、売上の減少は一切なく、風評被害も感じませんでした。
あるのは、会社代表者、従業員、親族、その他関係者が、嫌な気持ちになっただけです。
個人事業主の場合、この嫌な気持ちを、精神的苦痛として慰謝料請求が可能です。
でも、法人は、人間ではないので、慰謝料請求ができないというのが実務的考え方です。
ただ、現在、1円の資本金で会社が作れるようになり、社長1人だけの会社は、無数にあります。
社会的実体として、個人と会社の社会的行動が、融合し峻別できないのが実情です。
ならば、小規模会社の場合、会社代表者、従業員ら、親族らの精神的苦痛を会社の損害として同視して、慰謝料請求ができないものか。
最高裁は、昭和39年1月28日の判決で、法人の無形損害(目に見えない損害)でも、計算(金銭評価)ができれば肯定するという判断をしております。
ただ、この判例が適用されて、法人の慰謝料請求を正面から認めて金額を算出した裁判例はありません。
そもそも、売上減少がないのに、慰謝料請求の主張だけをして、わざわざ法人が訴訟提起をすることはないんでしょう。
上記昭和39年1月28日の最高裁判決の事案も、謝罪広告並びに慰藉料請求事件であり、高裁が法人の慰謝料請求を明確に否定したことに対して最高裁が、否定はしない、金銭評価できれば肯定するという結論を出したにとどまり、慰謝料の金額は、明確にせず、高裁に差し戻しされてますが、その後の結論が追跡できないので、恐らく、差し戻し後の高裁で和解したのではないかと思われます。
では、最高裁が言う、金銭評価ができれば、法人の無形損害(慰謝料)も肯定するとありますが、その計算方法がわからないので、そこを明らかにすることに意義はあるかと思います。
昭和39年当時、インターネットは存在せず、
今は、インターネットによって、誹謗中傷が容易にでき、会社も無数に作れる状況です。
この現代社会において、法人の慰謝料請求が正面から肯定されれば、
会社は、慰謝料請求ができないから、訴訟しても無駄だという実務慣行を打破できれば、
誹謗中傷に対する実務界に大きな一石を投げれるものと思われます。
法人に実損害がないならば、法人に対する誹謗中傷への民事的責任を、事実上問えないという実務慣行を打破したい。
従業員などが感じた嫌な気持ちを法人の損害として肯定できないか。
第2に、
現在、インターネットを介して、Google、Amazonなどの外国国内に本社があるサービス企業が、日本国内で各種ビジネスを展開していることは、自明ですが、
ほとんど知られていないことですが、
日本の会社法817条では、日本国内で取引をする外国会社に対して、日本国内に代表者(代理人)を置くことを義務付けています。
代理人の法人登記を義務付けてます。
ただ、GAFAなどは、この会社法の規定を平然と無視して、長らく代表者の登記を怠っていました。
それに、法務省が怒り、登記をするように指導したところ、GAFAを中心に登記をするに至りました。
https://www.asahi.com/articles/ASQ4H76GLQ4HULFA03F.html
登記前は、GAFAなどへ誹謗中傷の削除を求める場合、わざわざ米国まで英訳付で訴状を送達して、
かなりの労力を要して訴訟提起をしておりましたが、この国内の代表者登記によって、日本国内の代表者へ送達すれば足りることになりかなり円滑になりました。
しかし、オランダ籍のBooking.comは、日本国内で大手旅行予約サイトという地位にありながら、
そのサイト内(会社概要)で、オランダ以外の国では、登記をしないと宣言しております。
要は、日本の会社法を守らないと宣言しています。
以下のような記載があります。
Booking.com B.V.は、法人登記されているアムステルダムのオフィス以外において、世界のいかなる場所やオフィス(関連会社のオフィスを含む)商業登記を承認したり引き受けたりすることはありません。
このような、日本の会社法を明確に否定する外国企業への責任の問い方を実務上、確立したいと考えております。
その方法として、会社法818条2項の規定が手がかりになります。
(外国会社の日本における代表者)
第八百十七条 外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。
2 外国会社の日本における代表者は、当該外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
3 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 外国会社は、その日本における代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
(登記前の継続取引の禁止等)
第八百十八条 外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない。
2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
会社法818条2項は、
日本国内で登記をしていない外国会社が、違法に日本国内で取引をした場合、取引した者が、外国会社と連帯して責任を負うという規定があります。
この規定自体、ほとんど知られていないし、適用された裁判例がないので、そもそも、訴えを提起した人がいないかと思いますが。
なので、解釈は、手探りになりますが、
オランダの、Booking.comは、日本国内の営業用に、Booking.com Japanという日本法人を持ち、その日本法人を営業者として使い営業活動をしております。
ならば、この日本法人Booking.com Japanが、オランダにあるBooking.comの責任を連帯して負うべきという主張をしていきます。
なので、今回の被告は、誹謗中傷の削除を無視したBooking.comではなく、日本法人Booking.com Japanとなります。
平然と、日本の会社法の規定を守らずにいる外国会社に対する責任追及の手段として、日本法人(子会社)が連帯責任を負うという実務慣行ができれば、外国会社との紛争解決が、かなり円滑に進むかと思います。
外国会社相手に、裁判をすること自体、難しいと諦めるケースも多々ありますが、日本法人が連帯責任を負うという裁判例が確立されれば、その一助になるかと思います。
例えば、Amazonジャパンは、存在しているが、訴訟提起の相手は、米国のAmazonに限定されており、色々と不便が多いと聞きました。
第3に、
口コミサイトで、誹謗中傷をした表現主体は、誰なのか?
という問題があります。
「さいてい」と、
誹謗中傷されましたが、
この誹謗中傷をした表現主体(発信者)は、誰なのか?
書き込んだ、Shozo だろうと思うのが、主流かと思います。
そうなると、
口コミサイトの管理者たる、Booking.comは、サイト管理者の地位に立ち、プロバイダ責任制限法によって、責任が限定されます。
それでよいのか?
という疑問を投げかけることに意義があります。
この点、2017年1月31日の最高裁判所決定(Google検索結果削除請求事件)は、検索履歴は、検索結果の表示自体が、特定の情報を摘示する表現行為としての側面を持つとして、Googleが、表現主体として肯定しました。
この判決の考え方を工夫すれば、口コミサイトも、投稿者が全くの自由書式で投稿できるのではなく、予め、Bookingi.comが、設定した項目に沿って、入力していくわけで、
例えば、
部屋の立地、清潔さ、安さなどを5段階で評価し、
Booking.comが、回答して欲しいことを予め設定して、それに答えるという形式で、投稿者が表現をするわけで、Booking.comの表現を、投稿者が補助している、または共同で表現しているとも考えられるかと思います。
そうであるならば、口コミサイトの管理者も、管理者としての間接責任ではなく、表現主体としての直接責任を負うべきであるという考えにいきつくものです。
果たして、裁判所がいかに考えるのか。
最後に、
一般的には、本件のような事件は、法人は、訴訟提起をする動機、実益がなく、放置するのが通常の商取引慣行かと思います。
なので、実務上、前例がない状態が長く続いています。
しかし、前例ができれば、実務上、かなり有益なことも多くなるかと思います。
なので、前例を切り開きたいと思います。
いずれにしても、和解はせずに、最高裁まで裁判を継続して、記録として残します。
高谷滋樹
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