コラム
使用者責任を追及する被害者側に過失がある場合
人材派遣人材紹介法律顧問裁判手続被用者の不正行為により会社に損害が発生した場合、被害を受けた側にも過失があった場合は、過失相殺として損害賠償額が減額される可能性があります。
これは民法第722条に規定されており、裁判所の判断により過失が考慮され、最終的な損害賠償請求額が算出されることになります。
(損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺)
第七百二十二条 第四百十七条及び第四百十七条の二の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。
2被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
今回は、被用者による金銭的不法行為・情報漏洩事案において、被害者側の過失が認められ、損害賠償請求額が算定された裁判例を2つ紹介したいと思います。
まず1つ目は、従業員が会社の資金を流用して大量の新幹線回数券を不正購入したという事案です。
【事案の概要】
原告:旅行業を営む株式会社
被告:電気機械器具の販売を行う株式会社
被告の従業員A氏は被告会社の某部署の部長を務める者であり、原告との間で「JR・国内航空券の代金支払いに関する覚書」と題する書面(以下「本件覚書」という。)を取り交わしていました。
A氏は本件代金支払契約に基づいて、原告から、東京・新大阪間「新幹線エコノミー回数券」普通券(以下「新幹線回数券」という。)を1か月に1,2回の割合で購入しており、平成4年11月16日には新幹線回数券85冊を、代金5032万円(支払期限同年12月10日)にて従前と同様に買い受けました。
しかし、実はこの新幹線回数券はA氏により直ちにチケット屋で換金され、これを、旅行業を営む他社から同様の手法で入手した新幹線回数券の購入代金の支払いに充てられていたのでした。
これを受け原告は被告の被用者の不法行為を理由に被告に対し使用者責任に基づく損害賠償とその損害発生の日の翌日からの遅延損害金の支払いを求めました。
これを受け裁判所は、本件A氏の「新幹線回数券の購入」という行為は外形的に業務の執行にあたると考えられ、加えてA氏の説明や本件取引を含む一連の取引の取引高等の事実を見ても、原告の悪意又は重過失を根拠づけるものとはいえないと判断しました。
しかしながら、本件覚書が取り交わされた際、覚書冒頭と末尾の当事者表示が食い違っており、かつ、A氏の名前が手書きで記入され個人用と区別ない丸印が押捺されており、その不自然さが顕著であったことが指摘されました。
加えて、部長という肩書を使用している者が直接受け取りに来ることや、取引量が増加すると同時にA氏の説明と矛盾する状況が生じていったことについても、疑念を抱いても不思議でない状況が生じていた点について触れました。
こうした状況があったにも関わらず、詳細を追及する等の改善に努める行動が原告に見られなかったことについて、原告にも「被告の監督上の責任に劣らぬ過失」があるとし、原告6、被告4の過失割合が認められました。
なお、上記のような事案と類似するような事件は多数発生しています。
しかし、その多くの裁判例で被害者側にも過失があったとして、過失相殺が行われています。
なお、過失相殺が認められた判例の共通点としては、「わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行為がその職務権限内において適法に行われたものでない事情を知ることができたのに、漫然とこれを職務権限内の行為と信じた」ことが過失と判断される根拠となっていたということです。
2つ目に紹介するのは、情報漏洩において、委託した側にも過失があったとして、連帯責任が認められた事案です。
【事案の概要】
原告ら:個人情報等を提供していた人々
被告:主に子供向けの通信教育事業を行う会社
原告は被告に対して、氏名等を含む個人情報を提供していたのだが、この個人情報は被告の三次委託先に提供され、システムの開発、保守、運用に使用されていました。
そうした中で三次委託先の従業員が、自己の所有するスマートフォンを用いて当該個人情報をダウンロードし第三者に売却して外部に情報を漏洩させる事件が発生しました。
これを受け原告らは自身のプライバシーが侵害されたことにより精神気苦痛を被ったと主張し起訴した事案になります。
具体的には、被告に対して、委託先の選定および監督を怠ったことを理由とする不法行為責任又は三次委託先を被用者とする使用者責任を負うものとして損害賠償を請求しました。
これを受け裁判所は、以下の理由から被告および被告の二次委託先について、過失による不法行為責任を負うものとし、その不法行為は客観的に関連するものといえることから、共同不法行為が成立するとして、連帯して損害を賠償する旨判示しました。
本件において被告は「専門性・信頼性の高い委託先に委託した」として情報が不正に取得されることの予見可能性を否定しました。
しかしこれに対して裁判所は、通話機能を超えた小型のパソコンとも呼べるスマートフォンは年々機能が向上し、その普及率も著しい中、接続制御機能を有する商用のセキュリティソフトの販売が拡大していた背景に加えて、被告自身も、情報漏洩のリスク管理を行うためにIT機能会社である二次委託先に対して本件業務を委託していたという事実があることから、被告には情報が不正に取得されることについて予見することができたと判断しました。
そして、今回の予見可能性の内容は、情報セキュリティに関する専門業者でなければ予見できない内容ではないと指摘しました。
さらに被告は本件業務を委託した後、定期的な委託先監査は行っていたものの、二次委託先が採用しているセキュリティソフトが重要な情報漏洩防止策に関係しているものであるにも関わらず、監査の対象から除外していたことについては、監査不十分として業務委託先である二次委託先に対する監督義務に過失があったと判断しました。
情報漏洩について、委託先の不正行為により損害が発生した場合、委託した側の責任が追及された事案はあまり多くは見受けられませんでした。
しかし、本件のように三次委託先という、一見関わりが薄いと考えられる当事者による不正行為であっても、監査など一定の関わりが認められる場合は、連帯して責任を負う場合もありますので、より一層注意を払うことが重要になると思われます。
以上、本稿では被用者等の不正行為において、どのような理由から、またどのような当事者が損害を賠償する責任を負うことになるのかを紹介しました。
今後はますます業務のデジタル化や業務委託の細分化が増加すると考えられます。
そのため、常にリスクヘッジを意識しておくことが大切だと思われます。
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